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Report. 6


SM/4月1日〜4月11日/43h
SM/4月1日〜4月11日/43h

【絵づくりのアプローチ 1】

 油彩絵具を使用した2作目です。今回も引き続き「1日で描くリアル油絵の基本 6色+白だけで多彩に描ける本格入門!」という技法書を参考にさせていただきました。

 この技法書に倣って鮮やかな黄、赤、青(固有色3色)と、暗い色合いの黄、赤、青(カゲ色3色)の6色+白を、新たに用意した習作用油絵具セットに入っている色に置き換えて使用しております。参考にさせていただいた作品は主に、技法書の《グラス》と久保博孝さんの《フラワーランゲージ》です。

 

【絵づくりのアプローチ 2】

 手順としても技法書の通り、カゲ色を混色した色を全体に下塗りしてグレーっぽい画面を作ってから描き進めていきました。また前回は絵具もペインティングオイルも速乾性のものを使用したのですが、今回はどちらも一般的な通常のものを使用して描き始めていきました。しかし通常の油絵具の扱い方がよくわからず、制作2日目に一度全て拭き取って下書きのみの状態に戻してから、改めて速乾性の絵具を使用して描き進めていきました。

 

【画材の相性、画材との相性】

 絵具とペインティングオイルの組み合わせを通常×通常、通常×速乾性、速乾性×速乾性…と試していった中で、自分の描き方に一番合っていると感じたのは速乾性×通常でした。前作では絵具の伸びがあまりないことの描きにくさを少し感じていたのですが、その要因がペインティングオイルにあったことがわかりました。今作ではその速乾性の油絵具×通常のペインティングオイルという組み合わせを中心に使用して制作しております。

 

【モチーフのセッティング】

 技法書では、ダンボールで囲われた中にモチーフを設置して照明を一方向から強く当てるなどかなりきっちり空間を作っているのですが、その方法が自分には窮屈に感じたため、テーブルの上にグラスを置いて奥に“ついたて”を置いただけの状態で制作しました。窓から入ってくる日差しと部屋の照明による明暗の変化が面白く、それを楽しみながら描くことができました。また、奥についたてを置いたことでモチーフの輪郭がくっきりしたため、絵具を速乾性に変えて以降はスムーズに描き進めることができました。

 

【色の作り方】

 背景とグラスは、前作と同様カゲ色3色と白の混色で作っていき、植物の部分は固有色3色も使いながら描いていきました。今回はモチーフの色の要素を増やして使う絵具の色数も増やして描きましたが、その中で自分には理屈よりも感覚で描いていく方が向いているとも感じました。「一枚の繪 2024年10・11月号」でコヤマ大輔さんが「頭で色名を覚えるのではなく、目で見てつくることが大切だと思います」と言われています。同じ組み合わせの色を混色しても比率が変われば色味も変わるし、違う組み合わせの色を混ぜて同じ色味を出すこともできます。型にはめればいいというわけではないことも今回学ぶことができました。

 

【振り返り】

 今回の作品が完成する頃には、花は枯れて実も変色してしまっていました。刻々と変化していくものを描き留めることの意味深さのようなものを、改めて感じました。また、複雑に反射している光やグラスへの映り込みなどをそのまま描かず、省略したり簡略化したり置き換えたりして、どうなっていれば絵として自然に見えるかを考えながら描きました。目に見えるものの何をどう描いていくかということは、これからも考えて制作していきたいです。今後は、明暗の関係性や輪郭線の強弱などもさらに調整して、確かにそこに存在していると感じるような絵をまずは目指していきたいです。

 

【使用画材】

キャンバス/リキテックスジェッソ/クサカベ習作用油絵具→マツダ速乾性習作用油絵具(パーマネントイエローライト、バーミリオン、コバルトブルー、イエローオーカー、クリムソンレーキ、ウルトラマリン、パーマネントホワイト)/世界堂ペインティングオイル

Report. 5


F4/3月26日〜3月31日/31h
F4/3月26日〜3月31日/31h

【絵づくりのプロセス 】

 今回はこれまでのアクリル絵具ではなく、初めて油彩絵具を使用して制作しました。参考にさせていただいた技法書は「1日で描くリアル油絵の基本 6色+白だけで多彩に描ける本格入門!」です。昨年12月頃から改めて制作方法を見つめ直し、三原色を基本とした色使いからの展開をアクリルガッシュで試してきましたが、こちらの技法書は丁度その発展版のような内容でした。

 この技法書では、鮮やかな黄、赤、青(固有色3色)と、暗い色合いの黄、赤、青(カゲ色3色)を6色として使用しているのですが、今回の制作ではカゲ色3色+白を基本色として使用し、描き進めていくこととしました。絵具の色の種類としては、用意した習作用油絵具セットに入っている色に置き換えて制作しました。

 

【写真から絵への変換】

 最初ということで、以前同じ写真からの絵づくりをしたことがある実家の猫(ホーリー)に再びモデルになってもらって、第2章で紹介されているグリザイユ(モノクロの絵)の描き方を参考にしながら、色味の幅を狭くして明暗の幅を広くするような描き方で描いています。前回は写真に写った比率のままのホーリーを描きましたが、その絵に対して近代日本美術協会の福田守男さんから「写真には手前のものが大きく写る特性がある→写真は実際と違う→顔と体の比率が合っていない」という指摘を受けました。また、近代日本美術協会の高梨敬子副理事長からは、キャットタワーの上を切り取ったシチュエーションであることに対して「絵としては重心が不安定」という指摘も受けました。それらを踏まえて今回は、写真から絵に昇華する方法についてもしっかりと考え、矛盾や違和感、不自然さのない絵を目指しました。

 

【初めての油絵】

 初めて油絵を描いて感じたことは、アクリル絵具よりもかなり扱いやすいということです。アクリル絵具はすぐに乾くため、広い範囲を塗る場合、塗り終わる頃には塗りはじめの部分が乾いていたりします。そのため乾く前の状態を維持して画面上で色を混ぜてグラデーションを作ったり重ね塗りをしたりするようなことは難しく、そういう点では制約のある画材でした。それに対して油絵は、乾く速度が画面全体で均一で緩やかなため、自分にとってはイメージ通りの制作がしやすくアクリル絵具よりも自由に描ける画材という感想を持ちました。また、油彩絵具の中でも速乾性のものを使用したため、アクリル絵具に慣れている自分にとっても乾く速度に対する扱いにくさは特に感じませんでした。

 

【技法書の取捨選択】

 背景は、技法書で紹介されている《ライム》を参考にして描きました。モチーフに光が当たっていることから浮かび上がる空間を背景として描くという発想は、とても新鮮でした。今後、大きめの人物画などでも、色合いを変えて試していきたいと思いました。その一方で「短時間で描くこと」をテーマにした技法書であるためか、部分的に描き進めていく方法が推奨されているところには抵抗がありました。油絵の特性を活かした描き方かもしれませんが、やはり絵は全体として関係しあって成立するものだと思うので、画面全体をある程度統一したペースで描き進めていくことを自分は大切にしたいと再確認することもできました。

 

【過去作品との比較】

 初めての画材だったので制作のスケジュールが予測できなかったこともありますが、今回は制作過程の写真を撮らず、油絵第一作目を完成させることにまずは集中して制作しました。今後は少しづつ色の幅を増やした作品や、徐々にサイズの大きい作品も制作していきたいと考えています。モチーフもこれまで中心だった人物だけでなく、今回のような動物や花、風景など、自分なりに油絵の可能性を試して広げていきたいと思っています。また今回は最後に制作過程の写真に代えて、実際に参考にした写真、その参考写真を使って2年前に制作した作品画像、今回の作品画像を順に紹介しております。

 

【使用画材】

キャンバスボード/リキテックスジェッソ/マツダ速乾性習作用油絵具(イエローオーカー、クリムソンレーキ、ウルトラマリン、パーマネントホワイト)/マツダ速乾性ペインティングオイルスペシャル

参考写真
参考写真
2023年制作
2023年制作
2025年制作
2025年制作

Report. 4


F10/2月25日〜3月13日/91h
F10/2月25日〜3月13日/91h

【絵づくりのプロセス 】

 今回は、近代日本美術協会春季展への出品を前提として、規定サイズ最大の10号のキャンバスに、ターナーのアクリルガッシュを使用して制作を進めていきました。描きやすさを特に重視して、複雑な着物の模様が入り込まないようにバストアップの構図とし、モチーフと背景の境目がシンプルで、また骨格の計算についてもあまりしなくていいようなポーズとしました。

 改めて絵具の色は黄、赤、青、緑、白の5色を使用し、既製の絵具の色に頼らずに描いております。 最初の構想から方向転換した部分もありますが、アクリルガッシュを使用した直近三作を踏まえての一作を描き切ることができたと思います。

 

【背景の構想】

 今回は、結果としては特定の方の作品を特には参考にしない形となりましたが、最初の構想では背景は「池越しの並木」を単純化したようなイメージで考えていました。それは、タイプは全く違いますが、背景を単純化、省略化したような田所雅子さんや佐久間公憲さんの作品に魅力を感じ、自分だったらどうするかを試してみたかったからです。昨年の近代日本美術協会展への出品作品《TAMASHIZUME 鎮魂歌》も同様の発想で、モネの最晩年の作品を参考にして木々を単純化したようなものを背景に描いてはいるのですが、よりシンプルにし主張や手数を少なくすることを意識して途中まで描き進めておりました。

 

【発想の転換】

 制作8日目までは背景に木々の緑を思わせるような色を暫定的に入れていました。しかし背景の下側から三分の一くらいまで池を描いていくと、その池部分が奥に遠ざかって見えることに気づきました。久保博孝さんの「混色をするときに注意しているのは、明度と彩度です。近い色、遠い色は彩度で決まります。近くはより強く鮮やかに。遠くは前に来ないように混色して調整します。」という言葉を思い出し、背景として丁度いい加減の色が作れたかもしれないと思い、池部分の色として混色して用意した色を背景全体にまで広げることとしました。ちなみにですが、コヤマ大輔さんが色んな種類の黄と青を組み合わせて、風景画の緑を描いていることを参考にして、背景は黄と青プラス白で描きました。

 

 【成果と課題】

 背景が奥に遠ざかったことによって、人物の黒髪や朱色の着物が引き立ち、背景と人物の間に距離感を作ることができたかなと思います。また肌の色の作り方や立体感の出し方、課題として感じていた白色の絵の具の使い方などを含め、アクリルガッシュを使用した自分なりの描き方は見つけられたとも思っています。

 その一方で、人物画の視線の向きの難しさも感じました。二作前の、椅子を使った人物画もそうですが、顔の正面方向とは違う方向に目が向いていることが現実にあって実際にそうなっているとしても、その瞬間を切り取ってしまうと不自然に見え違和感を覚えてしまうー。顔の正面方向とは違う方向に目が向いた状態の人物は、写真であっても見ているうちに怖さのようなものを感じてくるー。理由はわかりませんが、目は正面を向いているものという先入観があるせいなのかもしれません。人物画を描く上で、どの瞬間をどんな角度から切り取るかは、今後の課題として取り組んでいきたいと思います。

 

【次作に向けて】

 今後は、少しづつ油彩画にも挑戦していきたいと考えています。2年前の全国日曜画家コンクールの審査員講評において、田所雅子さんは「油絵などの絵具を重ねる画材で描いたら強い絵になったのでは、と残念に思う賞候補が何点かありました」とコメントされています。近代日本美術協会の福田守男さんや吉田絵美さんからも油絵の画材としての強さを伺い、ここ数年関心は高まっておりました。

 独学でできるものなのかはわかりませんが、画材を変えて描いてみるくらいの感覚で、これから色々と試していきたいと思います。 

 

【使用画材】

キャンバス/リキテックスジェッソ/ターナーアクリルガッシュ(パーマネントイエロー、パーマネントスカーレット、ウルトラマリン、ビリディアン、ホワイト)

Report. 3


F6/2月5日〜2月16日/65h
F6/2月5日〜2月16日/65h

【絵づくりのプロセス 1】

 今回は、山本佳子さんや田所雅子さんが白っぽい服を着た女性を多く描いている印象があり、何か理由があるのかもしれないという思いからイメージを整理していきました。大きめの作品が2つ続いたので、気分転換の意味合いも込めてテーブルでも描けるサイズのものです。棚を整理していたらたまたま出てきたイラストボードを使用しているのですが、全国日曜画家コンクールの規定にちょうど当てはまるサイズだったので、そちらを目標にして制作を進めていきました。

 

【絵づくりのプロセス 2】

 今回も絵具は長く使ってきたリキテックスのアクリル絵具ではなく、それぞれの透明度の違いを特に考えずに使えるターナーのアクリルガッシュを使用し、色数を絞って混色と水分量の調節によって描いていきました。また、最初から絵具で描き始める方法が普段の描き方ではあったのですが、数年ぶりに鉛筆で下書きをしてから、その上に絵具で描いていきました。構図としては田所雅子さんの作品を参考にしていて、顔周りの空間を広めにとって腰から上を描くような配置の仕方にしました。

 

【背景のグラデーション】

 肌や髪の毛の色の作り方は前回までに把握していたのと、服が白色なので色の要素をあまり考えなくていいことから、今回は特に背景の描き方を色々と試しながら制作していきました。「一枚の繪 2024年10・11月号」で大友義博さんが《薔薇とベリー》の制作において背景に黒系、グレー系、白系を含めて混色していることがとても興味深かったため、この絵でも黒やグレー系の色を背景に使うこととしました。雰囲気としては、杉本雅士さんの《晴明》などの作品のように、人物に光が当たっているような煙が立ち上っているような空間をイメージし、画面の外側に向かうほど暗い色合いとなるように調整していきました。

 

【色と質感】

 肌の色は引き続き赤系、黄色系、青系に白を加えながら混色しているのですが、前回の反省から赤みが強くならないように注意して制作しました。輪郭線をくっきり描かないことを前作で覚えたので、特に手の部分に柔らかさや丸みを出せたかなと思います。

 服の色は、前作の背景や椅子と同様に青系と茶色系、白の3色を基本とし、そこに今回は赤系と黄色系を混ぜて無機質な質感にならないようにしました。また、胸の下部分で絞られたようなふんわりした形の服で、骨格や肉付きは分かりにくいですのですが、肩とひじの位置関係だけは伝わるように注意しました。

 

【白い服の理由】

 今回「白い服を着た女性の絵」を実際に描いて感じたことは、手数が抑えられることに加えて立体感を出しやすいということです。前作では、服の基本となる色を4〜5色の混色によって作っていたため混色後に色味の微調整が必要だったのですが、今回の白が基調な服の場合は混色後の色合いの“ずれ幅”が少ないため効率的に描き進めていくことができました。その“ずれ幅”をきっちり整えずに生かすことも絵画の世界の“省略”ではあると思いますが、前作の制服ではその時その時の混色具合によって、赤みがかった紺色になったり黄色の比率が高くなったりして、その微調整に神経を使いながらの制作となっていました。また、紺色のような濃い色の服だと光が当たっている部分と影の部分の色の差があまり大きくないのに対して、今回の白い服だと光と影の関係や境界線が分かりやすいため立体感を出しやすいという印象を持ちました。“白い服の理由”がどこにあるかは分かりませんが、描きやすいという手応えみたいなものは感じることができました。

 

【今後の展開】

 アクリルガッシュは不透明の絵具という特徴があるのですが、今回それほど厚塗りをしていないはずの背景部分に乾燥後のひび割れが細かく数箇所にできてしまいました。それもアクリルガッシュの特徴ではあるので、やはりメインの画材としてではなく武器の一つとして兼ね備えておくという方向に今後は持っていけたらと思います。次回は久しぶりに着物姿を描こうと考えていて、まずそこまではアクリルガッシュで色々試そうと考えています。薄塗りに不向きなアクリルガッシュによる混色を学んでいる今、今後の展開が楽しみです。

 

【使用画材】

イラストケントボード/リキテックスジェッソ/ターナーアクリルガッシュ(パーマネントスカーレット、パーマネントイエロー、ウルトラマリン、ビリディアン、ローアンバー、ホワイト、ミキシングホワイト、ニュートラルグレー5、ジェットブラック)

Report. 2


F30/1月16日〜2月3日/100h
F30/1月16日〜2月3日/100h

【絵づくりのプロセス】

 今回はまず、椅子に座った女性像を多く描いている山本佳子さんの作品に影響を受け、僕自身も椅子に座った人物画を描きたいという思いから、構想を組み立てていきました。画材としては、前回主要な色の絵具を買い足したターナーのアクリルガッシュを使用し、支持体としてキャンバスではなくイラストケントボードを使用することとしました。これは、日美展に出品することを前提として今回の制作を開始したい意向があった中で、出品規定に「張りキャンバスの場合、厚みは2cmまで」という表記があるためです。規定内で最大の30号を制作しようと考えた時、市販のキャンバスだと厚みが2cmを超えてしまうため、ケントボードをカットしてF30のサイズにし、そこにジェッソを二重に塗って制作を開始していきました。

 

【背景という空間】

 今回の制作の中でやりたかったことは、まず椅子のある空間をしっかり作ることです。そのためにモチーフを大きく描き過ぎないように注意し、ペン画の中で見つけた椅子が自然に見える角度や描き方を、今回の制作に生かしていきました。また「一枚の繪 2024年10・11月号」の特集「油彩・水彩混色テクニック」の中の湯澤美麻さんのページを見て、白系、青系、茶色系の3色でグレー系の色味が作れることを知り、それを実践したくて今回、床と壁と椅子にあたる部分をそれぞれその3色のみで比率を変えて差別化を図りながら描いていきました。

 構図としては山本佳子さんの《読書》を参考にしていて、床と壁を一直線で区切らずに人物を境目にしてずらすことによって空間の奥行きを表現しようとしています。

 

【モチーフ】

 実はこの日、モデルさんは遅刻をして来られたのですが、そのせいなのか終始落ち着かない様子が見て取れました。読書するポーズをとっても肩に力が入っているように見え、それならばと思い不安定な心持ちが表せるようなポーズからの絵づくりを考え、この形に落ち着きました。

 絵具の色は、今回も佐久間公憲さんの《野の花》のように白系、赤系、黄色系、青系、緑系の5種類の絵具を使用していています。色の濃い部分の度合いは山本佳子さんや結城唯善さんの作品を目安にしているのですが、この絵の中では背景の淡い色合いと対比するような描き方となりました。また、肌の色は小野月世さんのように赤系、黄色系、青系の3種類を基本とし、そこに白を混ぜながら制作しています。

 

【省略することの大切さ】

 山本佳子さんが以前から言われている「省略することの大切さ」を僕自身も学生時代に言われてきましたが、どうしても満足するまで描き込んだり整えたりしたくなってしまい、制作に時間をかけ過ぎてしまうことがこれまで多くありました。それを踏まえて今回は、描き込みすぎないこと、こだわりすぎないこともテーマとして制作しました。背景の壁部分にできた“むら”をそのまま残し、輪郭線や境界線をくっきり描かず、肌の影部分も薄くして「サラッと描いた」ような感じを目指しました。それらが絵を描く上での省略することとは違うかもしれませんが、全てを詳しく描かなくていいということの一歩目は踏み出せたかなと思います。

 

【制作の振り返り】

 今回重視した空間作りという部分においては、床の光が当たっている部分と影の部分の明暗や椅子との関係性によって“床の面”を作ることができたことから、奥にあるのが壁だと認識できると思うので、ある程度まではできているとは思います。肌の色の赤みが強くなったことに関しては、冬服を着ている冬場であることを考えると不自然ではないかもしれませんが、意図的ではないので、この絵を見た人がどう判断するかに興味があります。全体の調和という観点から見てもやはり肌の色が浮いて見えたりもするので、空間作りを重視したあまり人物の描き方が甘いように見られるかもしれませんが、アクリルガッシュを使用してできることを一つ一つ着実に実行して試して確認している段階の作品として、得られた情報を色々とこれからに生かしていきたいと思います。

 

【今回の収穫】

 ちなみにですが、前回キャンバスに描いた時はミキシングホワイトを混色した色を背景に使ったのですが、その方法でケントボードに“面”を作ることが難しかったため、今回の制作では通常のホワイトを使用しました。油絵だとさらに白の絵具の種類が多いみたいなので、色々な方法があるということを今のうちから学べていることも大切な経験であり、今回の収穫だと思います。

 

【使用画材】

イラストケントボード/リキテックスジェッソ/ターナーアクリルガッシュ(パーマネントスカーレット、パーマネントイエロー、ウルトラマリン、ビリディアン、ローアンバー、ホワイト、ミキシングホワイト)

report. 1


P20/12月5日-1月1日/155h
P20/12月5日-1月1日/155h

【絵づくりのプロセス】

 ここ数年は、ザラザラの下地を最初に作ってからその上に描いていく方法で基本的には制作を進めていましたが、今回は久しぶりに張りキャンバスを使用しました。画面の質感よりも、描きやすさや手数の少なさを重視したい意図があったからです。そのキャンバスにジェッソを2重に塗って十分に乾かしてから、制作を開始しました。絵具としては、長年使用しているアクリル絵具を使っているのですが、下書きをした時にうまく絵具が乗らない感覚があったので、リキテックスではなくターナーのアクリルガッシュを使用することとしました。

 まず、今回の制作では、何よりも「一枚の繪 2024年10・11月号」の特集「油彩・水彩混色テクニック」を参考にしています。手元にあるアクリルガッシュの色の種類に応用してという形ではありますが、佐久間公憲さんの《野の花》の制作に倣って白系、赤系、黄色系、青系、緑系の5種類の絵の具のみを使用しています。

 

【肌の色の決め方】

 肌の色は、小野月世さんが以前から言われている赤系(血の色)、黄色系(皮膚の色)、青系(静脈の色)の3種類を基本にして、山本佳子さんのように白を混ぜたり水で薄めたりしながら調整して描いていきました。色味の方向性としては西田陽二さんの作品を参考にしながらも、影の部分は結城唯善さんの作品を参考にするなど、特定の方の模倣にならないように注意して制作しています。また、ここ数年は最初から混色されたような色の絵具を使ったり、影の部分で茶色系の色を使ったりもしていたのですが、基本に立ち返るように色の三原色の混色で影の部分も描いています。これは、近代日本美術協会の福田守男さんに「補色の使い方」を改善点として指摘されたことも関係しています。

 

【背景の作り方・考え方】

 背景は、使用した5種類の絵具を全て使って、比率を変えながらもトーンは均一になるように調節して描いていきました。久保博孝さんが「混色をするときに注意しているのは、明度と彩度です。近い色、遠い色は彩度で決まります。近くはより強く鮮やかに。遠くは前に来ないように混色して調整します。」という言葉が、背景の描き方で悩み続けていた自分にとっての一つの答えのように感じ、その言葉を自分なりに解釈し実践していきました。近代日本美術協会の雨宮正子さんに「背景が単色だと深みが出ないのでは」ということを以前指摘されたことも影響し、また、こちらの絵がある程度大きさのあるサイズ感であることからも、佐久間さんの《野の花》のように色々な色が混ざり合っていることが分かる色調をイメージして制作していきました。

 

【混色の効果】

 今回、既製品の絵具の色に頼らずに5種類の絵具の混色で表現することをテーマとして制作し、その中で「黒の絵具を使わずにどうやって黒を表現するか」ということも久しぶりに考えました。田所雅子さんも言われているように「黒は使ってはいけないという呪縛」をなぜか美術の教育の場で僕自身も植え付けられてきたのですが、いつからか黒の絵具を使うようになり、その結果黒を多用し過ぎていたことに気付かされました。黒髪を表現するために単独で黒の絵具を使ったりもしていたのですが、今回のような赤系、黄色系、青系、緑系の4色の混色の方が温かみや柔らかさを表せることを学びました。また、ここ数年は単色、または2色を混ぜたものを繰り返し薄く塗り重ねるというレイヤーを重ねていくような方法を基本として絵づくりを進めていましたが、3色以上を混色することによって色の幅が出せることも作業の手数を抑えられることも学びました。

 

【制作の振り返り】

 改めて振り返ると、色の描き分けという部分や女性の肌の色合いを表現するという部分では、これまでとは違うアプローチの仕方の中から折り合いをつけていくことができたと感じていますが、輪郭線(背景と服、下着と肌の境界線など)の描き方には課題が残ったとも感じています。コヤマ大輔さんが花を描く過程で「背景を塗る時は、花との境界線をシャープにするか、ぼかすかに注意します。すべてシャープにするとシルエットが強くなりすぎる場合があります。」と言われていますが、僕自身数年前から輪郭線をくっきり描く傾向が無意識のうちに強まってしまっていたことにも今回気づくことができました。

 今後は油絵を始めたり植物を描いたりもしていきたいと思っているのですが、「アクリル絵具で人物画」というスタイルの中での課題としては、白の絵具の使い方ということも今回感じました。特に肌を描く時に、水で薄めた明るい色と白を混ぜた明るい色では色合いが違うことから、白の絵具を使わずに下地の白さを生かして水で薄めた色を明るい肌色としてこれまで多用してきたのですが、それだと明るさの加減の調整を後から行うことができないためやはり白の絵具を使いたいのですが、それだとやはり違う色合いの肌色になってしまう。その辺りの解決方法を今後は探っていきながら制作を進めていきたいと思います。

 

【使用画材】

張りキャンバス/リキテックスジェッソ/ターナーアクリルガッシュ(パーマネントスカーレット、パーマネントイエロー、ウルトラマリン、パーマネントグリーンミドル、ミキシングホワイト)

2025|202420232022202120202019201820172016〜2015 


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